宇都宮地方裁判所足利支部 事件番号不詳 判決
主文
被告が訴外宮関石灰合名会社に対する東京地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第二八〇八号仮差押決定正本に基き別紙目録記載の物件に対してなした仮差押は之を許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、其の請求原因として、被告は訴外宮関石灰合名会社に対する売掛代金九万八千三百円の債権保全の為東京地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第二八〇八号仮差押決定正本に基き同年八月二日宇都宮地方裁判所足利支部執行吏井上三子をして栃木県安蘇郡赤見町出流原千百四番地原告会社赤見工場において別紙目録記載の物件に対し差押をなさしめた。然しながら該物件中硝子戸四枚抽斗五ケ付重戸棚一個、柱時計一個、衡立一個、卓子(大小)六個、椅子三個、台秤一個及リヤカー一台は原告が昭和二十六年五月十五日右訴外会社から買受け当時既に引渡を受けたものであり、プラスター製造用ボールミル附属付一式は元原告会社取締役市原和三郞が個人で訴外株式会社越ケ谷製作所から買受け之を右宮関石灰合名会社に賃貸し同会社が使用中のところ同日原告が右市原から買受け現に使用中のものであり、五馬力モーターは原告が同月十日訴外両毛電機株式会社より買受け、縄五十束は同年六月三十日原告が訴外松崎重二商店から買受けいずれも現に原告が占有中のものにして該物件は孰れも原告の所有に属するものであるから被告のなした本件物件に対する仮差押は失当である。よつて之が排除を求める為本訴に及んだ次第であると陳述し、被告の抗弁事実を否認し被告主張の解散手続はいずれも総社員の同意に基いてなされた適法なものである。ただ右社員のうち関根菊次、宮田義雄両名が当時既に死亡していたことは認めるが関根については関根新芽代、宮田については宮田恵子が夫々相続によりその権利義務を承継したので之が社員名義の変更登記を省略して形式上右死者名義にてその手続をなしたものに過ぎない。従つて実質的には右新芽代及恵子(恵子については後見人である市原和三郞)両名の同意を得てなされたのであるから被告の抗弁は理由がないと述べた。
(立証省略)
被告訴訟代理人は「原告の請求は之を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中被告が原告主張の仮差押決定正本に基き原告主張の日時本件物件に対し仮差押をなしたことは認めるが、右物件が原告所有であることは否認する。即ち右物件中原告がその主張の日時プラスター製造用ボールミル附属付一式を原告主張のような経過を経て之を買受けたこと及原告がその主張の日時五馬力モーターを訴外両毛電機会社から、縄五十束を訴外松崎商店からそれぞれ買受けたことは不知其の他の事実は否認する、と陳述し、抗弁として、仮りに原告主張のように訴外宮関石灰合名会社と原告との間に原告主張の物件について売買がなされたとしても該売買は次の理由で無効である。即ち右訴外会社は昭和二十六年四月二十日解散決議を仮装し総社員の印鑑を冒用していずれも総社員作成名義の右会社を解散することに同意する旨の同意書、杉本粂太郞に右解散登記手続を委任する旨の委任状及右杉本を解散後の清算人に選任する旨の承認書をそれぞれ偽造した上同月二十五日解散登記手続竝に清算人選任登記手続を了したものである。しかも右文書中には前記社員中関根菊次、宮田義雄は当時既に死亡しているに拘らず同人等の署名捺印がなされている有様である。従つて前記解散及びその登記はいずれも無効のもので右訴外会社は依然として従来通りの形で存続していることとなるから登記簿上の清算人はその代表資格を有しないこととなり、従つて清算人杉本と原告との間になされた前記売買は無効である。と述べた。(立証省略)
理由
被告が訴外宮関石灰合名会社に対する売掛代金九万八千三百円の債権保全の為東京地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第二八〇八号仮差押決定正本に基き同年八月二日栃木県安蘇郡赤見町出流原千百四番地において別紙目録記載の物件に対し仮差押をなしたことは当事者間に争ないところである。そこで原告は本件物件は自己の所有である旨主張するに対し被告は之を争うので按ずるに証人松平功の証言竝に原告代表者市原和三郞の供述及び右証言並に供述により真正に成立したものと認められる甲第一、二号証、第三号証の一乃至四、第四乃至第十号証と証人寺内秀雄の証言とを綜合すると、本件物件中硝子戸四枚抽斗五ケ付重戸棚一個、柱時計一個、衡立一個、卓子(大小)六個、椅子三個、台秤一個及リャカー一台は原告が昭和二十六年五月十五日右訴外会社から買受け当時引渡を受けたもの、ブラスター製造用ボールミル附属付一式は元原告会社取締役市原和三郞が個人で訴外株式会社越ケ谷製作所から買受け之を右訴外宮関石灰会社に賃貸し同会社が使用中のところ同日原告が右市原から買受け現に使用中のもの、五馬力モーターは原告が同月十日訴外両毛電機株式会社から買受け縄五束マルキ五十束は同年六月中原告が訴外松崎重二商店から買受けたものでいずれも本件物件は現に原告が占有中のものであることが認められる。そこで被告は原告と右訴外宮関石灰合名会社との前記売買は同会社を代表する資格のない清算人杉本粂太郞によつてなされたもので無効である旨抗争するけれども右抗弁事実を肯認するに足る証拠はない。却つて成立に争ない乙第三号証の一乃至三、第四号証の一、二、第五号証の一、二、証人松平功、同寺内秀雄、同中村安夫、同関根ミツ、同関根新芽代、同関根代治の各証言竝に原告代表者市原和三郞の供述を綜合すれば、昭和二十六年四月二十日当時右訴外宮関石灰合名会社が経営難の為解散のやむなきに至り同会社社員であつた宮田義雄の相続人訴外宮田恵子の後見人である市原和三郞がその解散手続をなすこととなつたところ同会社社員中宮田義雄、関根菊次は当時既に死亡していたので、右両名を除く総社員の同意の下に同会社を解散することとした上、之が清算人を選任し、右解散手続及清算人選任登記手続をなすに必要な文書を作成して之が手続を了したこと及び右登記手続に当り右死亡者両名については死亡による退社の手続が未了であつたためいずれもその相続人の同意を得て死亡者名義の文書を作成して之をなしたことが認められる。固より死亡者名義の文書を作成してか様な手続をなすことは違法と謂わざるを得ないけれども之あるがためにその解散並にその登記が当然無効となるものとは断じ難いから被告の抗弁は之を採用することは出来ない。そうすると本件物件はすべて原告の所有と認むべく、従つて之に対してなされた本件仮差押執行は許すべからざること明らかであるから原告の本訴請求は之を認容すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。(昭和二七年四月二三日宇都宮地方裁判所足利支部)